中心体複製メカニズムに関わる内在性分子の時空間マッピング

高尾大輔
(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
分子遺伝研究系 中心体生物学研究部門 助教)

2017年10月13日金曜日

中心体ミーティング



ドイツのハイデルベルクにあるEMBL(欧州分子生物学研究所)で開催されたEMBO Conference – Centrosomes and Spindle Pole Bodiesに参加してきました。3年に一度、ヨーロッパを中心に世界から中心体(centrosome)関連の研究者が集まる学会です。Gordon Research ConferencesFASEB Science Research Conferencesなどアメリカにも似たような学会がありますが、例えば今回のように「中心体」など具体的なテーマを設定し、テーマごとに2~3年に一度会議が開催される形式です。つまり何らかのテーマで同じような形式の会議がどこかで常に開催されています。ASCB(アメリカ細胞生物学会)のような巨大な学会とは異なり、近い研究テーマの研究者が集まるため内容が濃く、またタイトなスケジュールで食事もみんな一緒に食べるので合宿のような雰囲気で交流も活発です。大きな学会には大きな学会の良さがありますが、このような専門的な会議にはより大きな学術的な意義があると個人的には感じます。参加者同士の距離が近いため、特に大学院生やポスドクなど、まだあまりコミュニティーとのつながりがない方には研究者同士の交友関係を広げるいい機会でもあります。

今回は最近論文を発表した前所属・ミシガン大学での研究を発表しました。中心体ではなく繊毛に関する研究ですが、実は中心体と繊毛は密接な関係があります(私が中心体の研究を始めたきっかけでもあります)。繊毛は、中心体を構成する中心小体と呼ばれる構造から形成される細胞小器官(オルガネラ)です。実際、今回は中心体研究の会議ですが、繊毛に関するセッションも用意されていて、私の演題は口頭発表として採択されました。繊毛関連の研究者も多少いるとはいえ大半は中心体関連の研究者で構成される会議。多少の不安はありましたが、発表後、多くの方に声をかけていただき、なかなかの反響があったと思います。このような声はとても励みになります。

もう一つ、実はこちらの方がより不安だったのですが、Science Slamと呼ばれるイベントにエントリーしていました。これは研究に関するおもしろい発表をして観客を笑わせるイベント、いわばお笑いトーク対決です。言語の壁に加えて文化的背景の違いもあるのでうまく盛り上げることができるか不安でした。観客を楽しませることが目的となると、研究発表とは全く違う難しさがあり緊張しました。実際はかなりの笑いと拍手喝采に包まれました。5人エントリーしたうちの3番目でしたが、4人目が終わった時点では優勝を確信していました。が、5人目があまりにおもしろい。。結局は準優勝に終わりました。これでも光栄ではあるけどやはり優勝したかったです。優勝者については動画などを含めてSNSで拡散されていましたが、準優勝では目立ちません。昔誰かが言ってましたが、1位じゃなきゃダメなんです。とはいえ、その後の夕食やパーティーではたくさんの人から「おもしろかったよ!」と声をかけられたり握手を求められたり嬉しかったです。研究には直接は結び付きませんが、パーティーでうまく振る舞うスキルとともに、海外の研究者コミュニティーに溶け込むには有効な手段かと思います。ミシガン大学時代にも似たようなイベントで準優勝したことがありますが、いつの日か優勝できるのでしょうか。。

参考リンク
今回の発表内容に関連した論文(Current Biology, 2017, vol 27, 2296-2306)

2017年9月22日金曜日

出張!!遺伝研

10月28日(土)に東京の一橋講堂にて遺伝研の教授陣による講演や研究紹介のイベントがあります。一般の方向けなので、研究に興味のある方、大学院進学を考えている方はぜひご参加ください。参加費無料、以下のサイトから申し込みできます。
https://www.nig.ac.jp/kouenkai/kouenkai2017/index.html

2017年8月24日木曜日

やさしい科学セミナー


821日に国立遺伝学研究所で近隣の高校生を対象としてやさしい科学セミナーを開催しました。テーマはイメージング技術。光学顕微鏡の歴史と原理、中でも現代の生命科学研究で中心的な役割を担う蛍光顕微鏡法(共焦点顕微鏡法や超解像顕微鏡法を含む)の仕組みや応用例などを紹介しました。また、参加者にはその後に実際に共焦点顕微鏡を使った細胞の観察と、画像解析ソフトImageJを使ったデジタル画像の処理を体験していただきました。

光学顕微鏡の結像原理や分解能、光学系の設計などの基礎を全て講義しようとすると数日がかりになってしまうところを1時間に詰め込んだので、かなり駆け足な紹介でした。高校生を対象としている割には少し難しい内容だったかもしれません。実はそこはあえてレベルを少し高めに設定しました。大学や大学院の講義においても、生物系の学科・研究科では必ずしも光学の基礎をじっくり学ぶ機会があるとは限りません。今回の講義で全てを理解できなくても、興味を持ち自分でじっくり勉強するきっかけになればとの思いです。

百聞は一見に如かずと言いますが、細胞の中で起こっていることを知るためには実際に見てみることが大事だと思います。細胞の中を可視化する技術により生命現象の理解が深まり、また、病気のメカニズムや治療などに役立つ知見も得られます。何より、普通には見えないものが見えるようになることがおもしろく、このような楽しみは研究の醍醐味と言えるかもしれません。子供の頃に小さな顕微鏡を買ってもらって身近なものをいろいろと観察したのをよく覚えています。大学院でたまたま光学顕微鏡の専門家である恩師の下で研究することになり、ますます細胞の中を可視化するおもしろさにはまりました。ここ数年は自分で顕微鏡を改造したり作ったりといった機会はほとんどありませんが、それでも一貫して顕微鏡観察によるアプローチを重視して研究を進めています。自分がおもしろいと思うことはもちろんですが、より多くの人から興味を持ってもらえるように、これからも顕微鏡のおもしろさを伝えていきたいと思います。最後に、今回のセミナーに参加していただいた高校生の皆さん、企画・運営を支えてくださった皆さんにこの場を借りてお礼申し上げます。


参考リンク

当日の講義の内容ほぼ全てと実習内容の一部が動画で公開されています。

2017年6月16日金曜日

研究の経緯 ― 細胞のアンテナとして働く繊毛


国立遺伝学研究所の高尾大輔です。このたび国際科学技術財団の研究助成をいただけることになり、ブログを始めました。2016年7月にミシガン大学から現所属に移り、今回の研究助成対象にもある通り、中心体の複製メカニズムについて主に研究しています。まずは自己紹介も兼ねてこれまでの研究の経緯と、ちょうど最近論文がオンラインで公開されたところなので、その内容を紹介したいと思います。

参考リンク

DGD特集号に記載された論文(early view): http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/dgd.12360/epdf

Zoological Science Award 2011受賞の際の研究紹介記事: http://www.zoology.or.jp/news/index.asp?patten_cd=12&page_no=454

ミシガン大学での研究生活: http://biomedcircus.com/special_01_13_1.html

私はこれまで主に真核生物の細胞が持つ繊毛(鞭毛)に関する研究に取り組んできました。特に、光学顕微鏡を用いたイメージング・画像解析、さらにはシミュレーションを組み合わせ、細胞内の分子の動きを可視化するアプローチを積極的に開発・応用してきました。繊毛は細胞から生えている毛のような構造で、直径は数百ナノメートル、長さは細胞種によりますが数マイクロメートルから数十マイクロメートルというとても小さな構造体です。ほとんどすべての哺乳類細胞が繊毛を持つと言われ、体の機能を保つ上で重要な役割を担うことが知られています。例えば気管上皮では波打つような動きにより喉から侵入する異物を体外に掻き出す役割があり、精子の鞭毛(「鞭毛」の名で呼ばれることが多いですが真核生物の鞭毛は繊毛と同じものです)のように細胞の駆動装置としての役割もあります。また、一次繊毛(primary cilium)と呼ばれる、細胞のアンテナとして機能する繊毛もあります。この一次繊毛は様々なシグナル伝達に不可欠で、一次繊毛の構造・機能に関する異常は繊毛病(ciliopathy)と呼ばれる様々な病気を引き起こすことが知られています。繊毛の根元には基底小体(basal body)と呼ばれる構造がありますが、実はこれは中心小体と同じものです。このような関連から、繊毛と中心体といった広い括りで現在は研究を進めています。

繊毛は細胞のアンテナとしての機能を持つと書きましたが、実際、繊毛には様々なシグナル伝達に関わるチャネルや受容体が特異的に局在することが知られています。なぜ細胞表面ではなく繊毛にこれらのシグナル入力装置を配置するのか?その理由ははっきりしていません。文字通りアンテナのように細胞から伸びていることにより、効率よく細胞外のシグナルを受信できるという説があり、確かに一理あります。しかし、多くの繊毛の長さは数マイクロメートル程度とそれほど細胞から長く飛び出ているわけではなく、必ずしも細胞表面から垂直に生えているわけでもなく、さらには大半が細胞の中に埋もれていたりすることも多くあります。つまり、繊毛がシグナル伝達の入力装置として使われるのには、アンテナ説だけでは説明できない理由がありそうです。

ところで私は以前、精子鞭毛運動のエネルギー源であるATPがどのように鞭毛内を拡散し供給されるのかを研究していました。具体的には、鞭毛内での分子の拡散係数を顕微鏡イメージングと画像解析(FRAP解析)により実測し、その実測値を使って拡散をシミュレーションするという研究です。この研究で、シリンダーのように細長い鞭毛の構造によって、鞭毛内の分子の拡散が大きく制限されることが分かりました。このことは、繊毛内のシグナル伝達物質についても当てはまるはずです。そこで、先の研究で構築したシミュレーションモデルを拡張し、繊毛内におけるシグナル伝達物質のダイナミクスのシミュレーションを行いました。その結果、繊毛内ではやはりシグナル伝達物質の拡散が制限され、それにより局所的にシグナル伝達物質が溜まり、非常に高濃度になることが分かりました。一方、細胞体に流入したシグナル伝達物質はすぐに拡散し希釈されてしまうことが分かりました。つまり、繊毛にはシグナル増幅装置としての機能があることが示唆されました。この研究成果により、単にアンテナのように細胞から伸び出ているだけではなく、細胞外の微弱なシグナルを増幅する機能が繊毛にはあるという新しいモデルを提唱しました(Development, Growth & Differentiation, 2017)

鞭毛内のエネルギー供給という視点で始めた研究が思いがけず、繊毛のシグナル増幅機能という新たなモデルの提唱へと発展したわけですが、これも研究の醍醐味かもしれません。今後もイメージングと定量的解析・数理モデリングといった得意なアプローチを活かして研究を進めていきたいと思います。