中心体複製メカニズムに関わる内在性分子の時空間マッピング

高尾大輔
(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
分子遺伝研究系 中心体生物学研究部門 助教)

2017年6月16日金曜日

研究の経緯 ― 細胞のアンテナとして働く繊毛


国立遺伝学研究所の高尾大輔です。このたび国際科学技術財団の研究助成をいただけることになり、ブログを始めました。2016年7月にミシガン大学から現所属に移り、今回の研究助成対象にもある通り、中心体の複製メカニズムについて主に研究しています。まずは自己紹介も兼ねてこれまでの研究の経緯と、ちょうど最近論文がオンラインで公開されたところなので、その内容を紹介したいと思います。

参考リンク

DGD特集号に記載された論文(early view): http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/dgd.12360/epdf

Zoological Science Award 2011受賞の際の研究紹介記事: http://www.zoology.or.jp/news/index.asp?patten_cd=12&page_no=454

ミシガン大学での研究生活: http://biomedcircus.com/special_01_13_1.html

私はこれまで主に真核生物の細胞が持つ繊毛(鞭毛)に関する研究に取り組んできました。特に、光学顕微鏡を用いたイメージング・画像解析、さらにはシミュレーションを組み合わせ、細胞内の分子の動きを可視化するアプローチを積極的に開発・応用してきました。繊毛は細胞から生えている毛のような構造で、直径は数百ナノメートル、長さは細胞種によりますが数マイクロメートルから数十マイクロメートルというとても小さな構造体です。ほとんどすべての哺乳類細胞が繊毛を持つと言われ、体の機能を保つ上で重要な役割を担うことが知られています。例えば気管上皮では波打つような動きにより喉から侵入する異物を体外に掻き出す役割があり、精子の鞭毛(「鞭毛」の名で呼ばれることが多いですが真核生物の鞭毛は繊毛と同じものです)のように細胞の駆動装置としての役割もあります。また、一次繊毛(primary cilium)と呼ばれる、細胞のアンテナとして機能する繊毛もあります。この一次繊毛は様々なシグナル伝達に不可欠で、一次繊毛の構造・機能に関する異常は繊毛病(ciliopathy)と呼ばれる様々な病気を引き起こすことが知られています。繊毛の根元には基底小体(basal body)と呼ばれる構造がありますが、実はこれは中心小体と同じものです。このような関連から、繊毛と中心体といった広い括りで現在は研究を進めています。

繊毛は細胞のアンテナとしての機能を持つと書きましたが、実際、繊毛には様々なシグナル伝達に関わるチャネルや受容体が特異的に局在することが知られています。なぜ細胞表面ではなく繊毛にこれらのシグナル入力装置を配置するのか?その理由ははっきりしていません。文字通りアンテナのように細胞から伸びていることにより、効率よく細胞外のシグナルを受信できるという説があり、確かに一理あります。しかし、多くの繊毛の長さは数マイクロメートル程度とそれほど細胞から長く飛び出ているわけではなく、必ずしも細胞表面から垂直に生えているわけでもなく、さらには大半が細胞の中に埋もれていたりすることも多くあります。つまり、繊毛がシグナル伝達の入力装置として使われるのには、アンテナ説だけでは説明できない理由がありそうです。

ところで私は以前、精子鞭毛運動のエネルギー源であるATPがどのように鞭毛内を拡散し供給されるのかを研究していました。具体的には、鞭毛内での分子の拡散係数を顕微鏡イメージングと画像解析(FRAP解析)により実測し、その実測値を使って拡散をシミュレーションするという研究です。この研究で、シリンダーのように細長い鞭毛の構造によって、鞭毛内の分子の拡散が大きく制限されることが分かりました。このことは、繊毛内のシグナル伝達物質についても当てはまるはずです。そこで、先の研究で構築したシミュレーションモデルを拡張し、繊毛内におけるシグナル伝達物質のダイナミクスのシミュレーションを行いました。その結果、繊毛内ではやはりシグナル伝達物質の拡散が制限され、それにより局所的にシグナル伝達物質が溜まり、非常に高濃度になることが分かりました。一方、細胞体に流入したシグナル伝達物質はすぐに拡散し希釈されてしまうことが分かりました。つまり、繊毛にはシグナル増幅装置としての機能があることが示唆されました。この研究成果により、単にアンテナのように細胞から伸び出ているだけではなく、細胞外の微弱なシグナルを増幅する機能が繊毛にはあるという新しいモデルを提唱しました(Development, Growth & Differentiation, 2017)

鞭毛内のエネルギー供給という視点で始めた研究が思いがけず、繊毛のシグナル増幅機能という新たなモデルの提唱へと発展したわけですが、これも研究の醍醐味かもしれません。今後もイメージングと定量的解析・数理モデリングといった得意なアプローチを活かして研究を進めていきたいと思います。